第五話 政府中枢の対応と白百合リン | ディファレント・ワールド

 ― 東京都千代田区永田町 ―
場面は東京の霞が関に移る。ここは官公庁のオフィスがある日本の心臓部である。まだ、朝方で人気は少ない。そして、このオフィスの中心といってもよい首相官邸である会合が開かれていた。首相官邸のある会議室では会合の主要メンバーが椅子に座っていた。
この会合はNSC (国家安全保障会議)に属している。さらに秘密にされており、官邸の記者クラブ(各新聞社・通信社の記者の集まり)には知らせておらず、存在も知らない。
主要メンバーは記者に気づかれない為、官邸の裏のルートを使い、官邸内に入っていった。
なので、朝方にこの会合が開かれているなど、記者達は誰もわからない上に、絶対に世の中に出てはいけない最高級の国家機密を話会う会合だからである。主要メンバーは安全保障に関わる閣僚たちと一部の官僚である。そして、テレビ電話越しの総理である。総理は現在、外遊中なので、テレビ電話で参加している。まず、口火を切りだしたのは警察庁長官である。
「また、増えてしまいましたなー」
「前は数年前。しかし、奴らの出現場所が特定しにくい。どうしようもない」
続けて話すのは、統合幕僚長である。統合幕僚長とは陸・海・空自衛隊のトップである。
そして、大きいディスプレイに映し出されている総理が。
「拘束している異世界人はどうしている」
総理の言葉を聞いて、警察庁長官が総理の画面に向かって体を向ける。
「公安の報告によりますと、我が国の調査や様々な情報などを収集しに来たとことがわかりました。そして場合によっては、国民を連れていってしまうつもりだったようです」
「拷問はないな?異世界人と言えど、人間である以上、人権が発生するからな」
総理は警察庁長官の目を見ながら確認した。長官は一切、目を逸らさず答えた。
「もちろんです。それはありません」
「なら、問題ない。しかし、それ以外のことはどんなことをしても聞き出せ。拉致をするような連中だ!」
「はい。詳しいことは報告書にまとめさせました」
「はぁー」
そのやり取りが終わると、ため息ついた官房長官が呟きだした。官房長官は正式に内閣官房長官と呼ばれる。イメージにあるのが、よく記者会見をしているところで、簡単に言えば、内閣における報道担当といったところだろうか。
「こんなやられ放題の状況をいつまで。ほとんど後手になっている」
「現在、向こうのテクノロジーを分析や研究は進んでおります。もう、実用段階には入っており、成功すれば取り返しに行くことができます」
それに、続けて外務大臣がしゃべりだす。
「確か、過去に自力で帰ってきた例もあったはずで」
「その持ち物をベースにして長年研究しているのです」
幕僚長はそれが向こうを知る研究の手がかりになっているという意味で言っている。
「相手が同じ日本人とは信じられんよ」
官房長官は別の世界に我々と同じ日本というものがあり、自分の国の国民を拉致していることに合点がいっていないような素振りである。総理の方を見ると、目をつぶって、話を聞いていた。寝ているわけではないことを付け加えておく。
「我々の仕事は、捕らわれた国民を救出することである。それは外国でも異世界だろうが変わらない」
会議室にいるメンバーが総理に注目している。
「考えるべきことは、向こうが異世界人で未知の力を持っていることだ。それに、どう対抗するかだ。その方法を探るヒントが幸いにもあるということだ」
「彼ですね。総理」
警察庁長官が総理の言葉に答えた。それに総理は頷いた。会議室のドアの方を向いて・・・
「しばらく待たせたな。入ってくれ。片桐君」
と大きめな声で片桐を呼んだ。すると、二回のノックの後、ドアが開いた。
「失礼します。公安部に出向中の片桐です」
「彼は知っての通り、異世界からの帰還者の一人だ。片桐君だけではない。他にも複数の帰還した国民がいる。奇跡的に」
片桐は一歩前に出てメンバーに向かって言う。メンバー達も片桐の言葉を待つ。
「ええ。総理の言う通り。期間した仲間がいます。今は、それぞれ普通の生活をしておりますが、然るべき時が来れば共に闘ってくれるでしょう」
その後、片桐は話を続けた。向こうはこっちが思っている以上にステップアップしている可能性が高い。向こうの工作員もそうだが、拉致以上に日本に目に見える実害を出してくると言った。総理はもちろん、メンバーの頭に浮かんだのは何らかの攻撃であることを。片桐はそれ以上何も言わなかった。
「我が国はこれ以上、黙っているわけにはいかない。いざ、と言うときは我々と国民は覚悟しなければならない」
そして、話は聖斗の処理に移った。話を進めた官房長官は・・・
「彼の処置については。公安委員長?」
「こちらでやるわけにはいかないでしょう」
「不自然ですからね。記者達に変にでっち上げられても面倒です」
国家公安委員長の後に警察庁長官が答える。こっちでやるのは明らかに不自然であり、嗅ぎつけた記者を含むマスメディアが政府の疑惑報道をするかわかったものではないからだということである。
「マニュアル通り、家族からの届け出を待つしかない。そして、特定失踪者にするという段取りで」
国家公安委員長が言う。この場合、家族からの届け出を待って、動くのが自然だからである。
「彼と一緒にいた女子高生がいたとか。その彼女も力をもっていると」
「その東条アヤナはその力を使って、問題起こしていましたが、昨日は奴らと闘っていました」
警察庁長官が彼女(アヤナ)のことについて、片桐に聞いてきた。そして、アヤナも向こうのことを知っているかについてさらに聞いた。
「あんなことになりましたので、終わった後、彼女に全て話ました」
「そうか」
警察庁長官は納得し、片桐とのやり取りは終わった。そして、総理が口を開く。
「片桐君、ご苦労だった。これからもよろしく頼む。君の力が必要だ!」
「はい。ありがとうございます」
総理はその後、具体的な対異世界日本政策については帰ってから決めて、実行していくということ。そして、最後に・・・
「他国に決して知られるな」
総理は、これに関しては厳しく徹底させるようである。現代は情報社会でどこから情報が洩れるかわからないからである。そして、外務大臣を見た。外務大臣は総理が意図を理解したようで返事をする。
「わかりました」
「今日は以上とする」
総理が会合の終わりを告げた。会合はお開きである。メンバーは会議室から出ていった。片桐が部屋を出たのは最後だった。


皇居の外苑のベンチで弁当を食っているダークブラウンのスーツの男が座っていた。皇居外苑にはベンチが多くあり、座って、スマホをイジッテいたり、恋人同士が座っていたり、片桐のようなサラリーマンが座って弁当を食べていたりする。そのサラリーマンは大抵、霞が関の官僚か大手企業のサラリーマンぐらいだろう。

ブゥーブゥーブゥー

バイブ音が鳴っている。片桐のプライベートのスマホである。ズボンのポケットから取り出し、画面を見ると、相手は“白百合 ”と表示されていた。
「久しぶりですね。白百合さん」
「話さないといけないことがあって」
「昨日のこと感じていたようですね」
「ええ」
白百合は若い声をしている。その白百合が昨日の出来事を知っているようである。
「政府はそろそろ動くのかしら?」
「その時はそう遠くないでしょう」
白百合は政府の動きを当てている。ここでわかったのが白百合は一般人ではないということである。
「あれが完成したのなら、私も向こうに戻らないと」
「部下が心配で?」
片桐は電話相手の白百合の事情を知っている。白百合の向こうでの立場は何だったんであろうか?
「聖斗はどうだった?」
「聖斗とは海城聖斗のことですね?」
白百合は片桐が聖斗とあった印象について聞いてみた。
「確か、大学でのご友人でしたね?彼は、まだまだですが筋が通らないこと・理不尽なことには断固として戦う。最近の若者には珍しいと思います」
「力はないんだけど魅力的があるの」
「今は彼を信じるしかない。あれが出来ない限り、こっちではどうしようもないので」
そして、話は続きアヤナの話になった。白百合に詳しく聞かれたので、片桐は答えた。東条アヤナは、現在、そこそこの高校に通っており、最近は登校してはおらず、他の学生や弱そうな人を脅したり、何なりと金を巻き上げているらしい。その力を使ってである。その為、公安がマークしていた。アヤナに力が無ければ、町の警察が対処する事案である。しかし、力を持っていることから、彼女だけ公安の管轄になっているのだ。本来ならアヤナはお縄になっていてもおかしくないが、警察庁公安の根回しで、猶予されている。法治国家としては問題である。今回の聖斗とアヤナの力による衝突、さらに向こうの人間がその力に呼応して接近する気配があったので、やむおえず介入してしまったという今回の顛末の説明を聞いた白百合は・・・・。
「よろしくないわねぇー。」
「彼女にもいろいろな事情があるようで」
片桐は白百合の一言に答えた。彼女の不良行為には彼女も事情が関係していると、フォロー気味に言った。
「彼女も今回を最後にもう、やらないと思います。彼女の表情を見たら、何か気づいたようです」
白百合は片桐の言っていることに黙って聞いていた。
「いづれにしても、これから大きなことが起きるかもしれないわね。今回は前触れ。それに備えないと」
「それは、さっき会合でも議題になりました。総理も危機感を持っていましたから」
「そう。それなら、少しは安心。あっ・・・ごめん、電話長くなってしまったわね」
白百合は自分の近くの電話を見て、驚いた。気づいたら長くなってしまっていたからである。
「少しぐらい、大丈夫ですよ。俺、国家公務員ですから」
「自慢するなんていやらしい!」
片桐は何気に自慢した。政府の人間なのだから、それなりに貰っているのだろう。
「りんさんは大学卒業ですよね。どこ、何です?」
“りん”という名前は白百合の下の名前である。
「秘密よ!彼にも聞かれたけど、言ってないんだから・・・」
白百合は少し間を置いてから。話を続けた。この間に意味はない。何となくだろう。
「もう、就職どころじゃなくなるし」
「・・・・」
それに、片桐は沈黙した。その時の表情は特に、目が下を向いていた。
「ジンくん、今度改めて会いましょう」
「次の休日にでも」
「いいわ。じゃあ、切るわ」
電話が切れた。片桐も遅れて、電話を切った。スマホの画面の時計を見ると、だいぶ時間がたっていたことに気づいた。雲がまばらにある青い空を見上げてみると、太陽の位置も変わっていた。椅子に座っている横の弁当のことをすっかり忘れていた。食べてみるとやはり冷めている。

冷たい弁当を食べていると、電話がかかってきた。今度はプライベートのスマホではなく、公務用の携帯がバイブ音を鳴らしていた。私用のスマホとバイブ音の種類を変えている。
食べかけの弁当を横に置いて、すぐに電話に出た。
「もしもし、俺だが」
着信相手は片桐の部下だった。話を聞いていると、驚きの表情に変わっていた。
「彼女にも来ていたということだな?」
「はい。あの後もマークしていましたら」
部下が電話越しに返事をした。
「わかった。これからそっちに行く」
片桐は電話を切った。表情は真剣で、いろいろ考えているようである。
(行ってしまったか。真の意味で強くなってくることを君に祈る)
そして、再び空をみあげながら、片桐はつぶやく。
「これから、忙しくなるな」

―そして、しばらくしてとある女子高生の家族から捜索願が出された。さらに、白百合の出席した卒業式に一つだけぽっかりと席が空いていた。その席を白百合は少し、見つめていたが、視線を前に戻して、学長の式辞を聞いた。


第一章 現代のプロローグ <終>
関連記事

コメント

非公開コメント